2005年 / 日本 / カラー / ステレオ / 10分
不定期連続シリーズ第一弾。
俳優・杉山彦々のすべて。
杉山彦々
監督:入江悠
撮影:三村和弘
杉山彦々さんという俳優がいる。
世に蔓延する【生きにくさ】というものを一身に引き受け、それを体内の複雑な回路の中で分解・咀嚼・還元してから、全く何も考えていないかの如く表現できる稀有な俳優さんである。
すでに何本もの映画に出演され、また昼ドラなどにも顔を出されており、まだ街中を歩いていても中高生に「アレ、彦々さんじゃない?」と言われるほどは知られてはいないが、そうなるのはそれほど遠い未来の話ではない(まだ誰も声高に主張しないが、私は常々そう思っている。)
今はまだ江古田あたりのTSUTAYAやブックオフにて顔を見られるであろうが、数年後にはその姿は白金や高輪、もしくは自由が丘、田園調布にしか確認出来なくなるに違いない。
その前に。彼がタクシーでしか移動をしなくなるその前に。彼とのアポが取りにくくなるその前に。私は彼のドキュメンタリーを撮らなくてはならなかったのだ。
なぜならばそう遠くない未来、彼がアイドル映画に名脇役として出演した際には、このビデオが彼の20代後半の緩やかな日常をありのままに活写した貴重な資料となり、その原版を所有する私は一目散にTV局に駆け込み、ワイドショーあたりで流せないかと交渉する必要があるからである。
事実、この『杉山彦々のすべて』には杉山彦々のすべてが収められている。
まだ車を所有しない彼が無理やり都内を運転させられ、最後には目覚しい進歩をみせるに至った過程は、10年後ベンツSクラスやポルシェ911を所有している彼の微笑ましい出発点として人々の目に映るだろう。
また、水族館においてうっとりとした眼差しで熱帯魚を愛でる彼のつぶらな瞳は、まだ芸能界の汚れをしらなかった頃の純粋さ、そして時間の不可逆性というものを郷愁とともに人々の心に訴えるに違いない。
その際、お台場あたりのマンションに住む彼がこのビデオの不当性を、練馬あたりのアパートに住む私に弁護士経由で訴えようとも、私は一歩も引かぬ覚悟は出来ているつもりだ。
なぜならばこの作品には紛れも無い『杉山彦々のすべて』が収められているのだから。