M.K.(「埋もれ木」製作委員会)
「悠くん聞いて!」とタイトルだけのメールを送ってしまうほど、あたしは喜んでいた。
はじめて現場に参加した小栗康平監督9年ぶりの新作「埋もれ木」。
昨夏、鈴鹿・群馬での撮影を終え、年末に完成。
配給・宣伝に向けてのあれこれに、胃が痛かったり、大泣きしたりしていたけれど、カンヌにいけるとは、ありふれた言葉でいえば夢にも思っていなかった。
カンヌ映画祭はその名のとおり、『お祭』で、みんな世界情勢には目もくれず、夜を徹して映画の話で盛り上がるという。
華やかな映画祭の裏では大勢のバイヤー、パブリシスト、プロモーターたちが、すさまじいスピードで業務をこなしていく。
小栗組がおとずれた事務所には、アンティークなエレベーターに、美しすぎるバスルームやキッチン、カンヌの街と海が見渡せる屋上があり、そんな事務所で働いているパブリシストたちはさらに美しくみえる。
海外は修学旅行の韓国以来。
もともとそんなに海外に行きたい願望のないあたしは、「海外にいくと価値観がかわるよ~」なんて偉そうにいわれてきたが、価値観なんて変わりゃしない。
ただ、自分の思ってたことが強くなったり、確信がもてたということはある。
屋上でのプレス取材、監督週間の記者会見、公式上映・・・というスケジュールの中、なんとあたしはレッドカーペットを歩く機会にも恵まれ、(コンペティション部門のチケットを手に入れるのは本当に困難とのこと)先輩に借りたドレスと、カンヌで購入したストールとミュールで、完全に仕事できていることを忘れていた。
最終日は監督のリクエストで『魚のスープのおいしいレストラン』で夕食会。(これが本当においしい)
英語表記がある店はいいけれど、食事のメニューはもちろんフランス語。
「皆さん想像と違うものがでてきても文句を言わないでくださいね~」との前置きをして(いつも「あなたのが1番おいしそうね」と云われ困るらしい)、食事のたび、通訳の方が『○○のソテーに温野菜と~』『日本で言えば○○のような~』などと、10も20もあるメニューを読み上げてくれる中、待ちきれない監督が「皆、いまの5つの中から決めましょう」(最後まで聞こうよ・・・)。
『現場はじめてなんです』という若者が、あたしを含め10数人もいた小栗組。
若者たちは、ヤクザの車止めに失敗したり、小道具の饅頭にやたらこだわったり、レンタカーをぶつけたり、降らさないでいいところで雨を降らせたり(あたしは本当に怒られた)、どうでもいいところで田圃に落ちたり・・・と、迷惑をかけまくり、足をひっぱりまくってはいたけれど、一流のスタッフ、キャストと仕事ができることが本当に嬉しいし、若者に厳しくも優しい監督の作品に参加できたことが、本当に幸せだと今、実感している。
監督と出会って17ヶ月。
「この作品はファンタジーです」と監督は云う。
ひとりでいられない若者や、弱さと向き合っている人たちに、だれかの批評を待つことなく「埋もれ木」を観てほしいとあたしは願う。
6月25日、シネマライズでの封切が迫る。
「埋もれ木」
監督:小栗康平
製作:小栗康平、山本千秋、佐藤イサク、砂岡不二夫
脚本:小栗康平、佐々木伯
プロデューサー:佐々木伯、鈴木嘉弘
撮影:寺沼範雄
美術:横尾嘉良、竹内公一
照明:豊見山明
録音:矢野正人
編集:小川信夫
夏蓮/登坂紘光/浅野忠信/坂田明/大久保鷹/田中裕子/岸部一徳/平田満/坂本スミ子/左時枝/中嶋朋子
2005年/日本映画/1時間33分/ヨーロピアンヴィスタ/ドルビーSR
製作:「埋もれ木」製作委員会
宣伝:ファントム・フィルム
配給:ファントム・フィルム 「埋もれ木」製作委員会