レポート - REPORT

第1章 雪国のおしゃれは足下からの巻 ~ロケハンにて~

「雪でも滑らないように、一応しっかりしたスニーカーを」とバタバタ自宅を出た。

この選択がこの映画の度重なる苦労の発端になるとは知る由も無かった。

車内ではスノボやスキーの行楽目的の車を横目に、監督入江とキャメラマン三村と共に入江組ではおなじみのチョコスティックパンをかじる。

赤城ICで高速を降り、下道を北上すると徐々に道路脇の雪壁が高くなり、路面は凍結している。

私は後部座席から監督が片手でペットボトルを開ける度に恐怖を感じていた。

運転を代わり、苗場辺りを過ぎた辺りからは雪が吹雪いてきた。

豪雪地帯とは名ばかりではない。雪が吹雪けば、10m先を見るのも危うい。

バックミラーで車がスリップして回転している光景を目の当たりにする。

南国生まれ、南国育ちの私はハンドルを握る手に緊張が走る。

日本一の豪雪地帯と呼ばれる津南周辺をうろうろする。

車を降りて辺りを少し散策する事に…が、ここで既にスニーカーの紐は凍っていた。

下っ端の私は「ちょっと長靴が買いたいからどこか寄れないか?」など言えない。

ここで撮影となれば、スタッフは全員長靴が必要になる事だけは分かった。

となれば、どこで長靴が調達出来るかだ!

現地で何か調達しなければならない時の為に店を探さなくてはならない。

田舎であればデカイホームセンターがあってもいい。そこになら長靴があるはず!

だって雪国だし。名案を思いついた私は車を走らせながら、こっそり店を探す。

しかし、店は見つからない。

さて、辺りは一面雪景色。ちょっとでも体重を乗せれば足は膝上まで雪に埋もれてしまう。雪の平原を前に立ちすくむスタッフの後ろで、監督が言う。

「じゃあ、歩いてみて。」

私のスニーカーは限界である。ジーパンも既に膝まで濡れている。

いや、凍りつつある。

躊躇している私の横を完全防備の三村が勢い良く走り出す。

が、数歩で深々と埋まってしまう。こんな場所を役者が歩けるのか?

昔話でしか聞いた事が無いかんじきを用意しなくては…。しかし、どこで?

雪国なら売っているのだろうか?問題は山積みだ。

撮影となれば、スタッフは軽やかに動かなければならなし、役者に近づく時は足跡も付いてしまう。デカイ板が必要だ。

トイレは?こんな雪の平原の中で仮設トイレを作らなければならない可能性まで出て来る。防寒対策は必須だ。たき火をする事も頭に入れなければ…。

第2章 インターネットの威力の巻 ~小道具準備において~

今回の撮影の為に準備した物として、他の現場では準備しないであろうものが、かんじきと煙幕であった。

かんじきはロケハンの巻でも書いた様に、雪の平原対策である。

また煙幕は雪が吹雪いていない時のスモーク代わりである。

さて、東京でかんじきを探すのは、なかなか難しい。スノーシューなどは2万以上してしまうので、中古で探しても話は同じである。となれば…なんとか安いかんじきを手に入れるしか無い。今回の小道具集めで大いに活躍したのがネットオークションで、かんじきは北海道から取り寄せた。

さて煙幕であるが、これが失敗した。

東急ハンズで見つけた「1分間煙幕」第1クールの撮影ではこの煙幕で対応したが、これに不発弾が混じっていた。使い物にならない。

やはり車に搭載されている発煙筒を使うのが一番である。

が、あの発煙筒。一個で500円はする。10本用意すれば5000円。

これはお金がかかりすぎるし、10本で足りるとは思えない。

となったらやはりオークション。なんと1本50円でゲット!

勢い余って100本を和歌山から取り寄せた。結局5000円かかってるし!

でも、余れば何かに使えそうだし、買い取ってもいい。

第2クールではこの発煙筒が思う存分に使われた。

第3章 敗北感の巻 ~第1クール~

AM2時東京出発。しかし関越が霧の為に通行止め。

ここまで霧が深いと、周囲の建物がぼんやりと見えてまるでセットの様である。

スタッフの中には3日前に新潟行きの連絡を受けた者だけではなく出発1時間前に連絡を受け、半分拉致の状態で参加している者もいた。

そして夜霧は青く、この先に起こる事態を誰も予想はしていなかった。

2日間で約50カット。これが今回の撮影に課せられた最もシビアな条件だった。

しかし、いつものキャメラマン三村の撮影ペースでいけば、なんとかこなせるかも知れない。そういう考えが甘かった。

自然は待ってくれはしない。

関越通行止めの為、現地に着いてからは休憩する間もなく撮影が始まった。

しかしロケハンの時に決めた場所は雪が溶け、現地でロケ場所を変える事態へとなる。そう、ロケハンは1月だった。撮影は3月半ば。

雪が溶けていても当然である。とりあえず雪の平原のカットを撮影する。

このカットが役者にとっては後にも先にも人生で最も過酷なカットであったに違いない。カットがかかった瞬間、防寒着を持って駆け寄ると、手は青紫になるまで冷たくなり、体は限界を超えた寒さで震えていた。

予定のカット数も取り終えぬまま、時間は過ぎて行く。

予定していた場所の雪が溶け、その場所が全く無くなってしまっていたため、スタッフをぞろぞろと従えながら、ロケハンをする羽目になる。

結局、スタッフを半分に分け、撮影出来る所を撮影する班と理想に近いロケ場所を雪を掘って作る班が編成された。

撮影班もスタッフが半減してしまった為に、撮影が捗らない。

時間は刻々と過ぎて行く。結局2日間通して、目標カットの半分を残したまま新潟を後にする。帰りの車中、スタッフの中には敗北感が漂っていた。

第4章 雪道を作るの巻 ~第2クール~

映像効果として、雪が映りにくいという事で前回のクールで煙幕を炊いた。

しかし、それだけでは…ということで、発泡スチロールを粉々にしてカメラ前で降らせる案が出た。

という事で、第2クールは新潟までの車中で発泡スチロールをこすり合わせる不快な音で始まった。(私は撮影2日目から参加した為、以下の報告は先発スタッフの話を元に書く)

本来は第1クールで終わるはずの撮影だった。

急遽第2クールが決まった為、都合がつかないスタッフも出て来た。

となると第2クールで初参加となるスタッフも数人出てくる。その新規参入スタッフはまだ雪国の恐ろしさを知らず、その後とんでもない事件に巻き込まれるとは思ってもいなかっただろう。

そして事件は起きた。先発隊は2台の車でロケ地へ向かった。チェーン搭載のハイエースと、ノーマルタイヤの乗用車である。予想通り、ノーマルタイヤの乗用車は山中の上り道で進む事が出来なくなってしまった。そして、新規参入スタッフの内1人をその車の中に置き去りにし、他のスタッフでとにかく現地に到着し、後でそのスタッフを助けに行くという作戦がとられ、置き去りにされたスタッフは、その後3時間近くも1人で待っていた。一体何をしていたのだろうか…車の中で大声で歌っていたのではないだろうか…あまりにも可哀想である。が、おいしい。

私は撮影2日目、発煙筒100本をハイエースに載せ現地へ到着した時、残りは数カットだった。しかし、そう思って安心は出来なかった。

監督の「埋めようか」その一言で、スタッフは総動員して新潟にポンヌフの恋人のラストシーンを作り上げた(笑)

この映画に、俯瞰の画が必要だった。その為にキャメラマン三村は身を危険にさらしながらも即席命綱(キャメラ用であって、決して人間用ではない)で電柱に駆け上った。雪が溶けてしまったアスファルトの道路を約30m程、スタッフ全員で雪で埋めた。

この作業をしている間、スタッフの誰からも、苦言は出なかった。

その現場は情熱に満ちあふれていた。そして、その道路の両脇からスタッフが発煙筒を両手に握り、監督のスタートの声はかかった。

やり遂げた。その一言だった。

第5章 タクトに合わせてオーケストラが!の巻 ~音楽録音~

この映画はスケールがデカイ。

こんなにスケールがでかくなると、監督以外の誰が予測したであろう。

いや、監督すらこんなにスケールがでかくなるとは予測し得なかったのではないだろうか。

撮影を終え、編集、後処理の作業をしている中でその話は出た。

いや、正確にはロケに行く車中でその話は出ていた。

「音楽はオーケストラが使いたい」監督の一言だった。

一ヶ月後に完成締め切りを控え、作曲家から楽隊、録音スタジオを押さえるのは不可能に近い。いや、普通なら不可能だ。

しかし、私は断言出来る。入江組に不可能の文字は無い。作曲家を半分騙す様に呼出し、オケ録音と作曲を依頼する。

偶然にもオケが練習中という事で、その楽隊に協力してもらい、オケで録音する事が決まった。打ち合わせから録音まで、たったの2週間である。

尋常ではない人使い。これが不可能を可能にした。

第6章 偉大なる監督の巻 ~作品が完成して~

今回の入江組作品は、多大なる友人・知人に感謝しなければならない。

自分の人脈を使えば(巻き添えにすれば)、不可能を可能に出来るという事を入江監督に利用されて気付いた。いや、気付かせて頂いた。

やはり、私にとって入江監督は偉大である。

この作品に制作兼助監督として携われたことに感謝すると同時に、この作品が今後の入江監督の初期代表作として、世に残せる事を、心の底から嬉しく思う。

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